老いぼれエンジニアには隠す爪がない

この時代に老いぼれを見たら、「生き残り」と思え…!

裁判の簡単な流れ

私には裁判経験があります。

その経験からアドバイスできること、それは、裁判を避ける方法があるなら極力避けるようにしてください、という一点です。

以前、もとサラ金業者の人がサラ金の手口をいろいろと晒しているブログがあって面白く読ませてもらっていたのですが、ガチンコの裁判をするのはあまりよい選択肢とはいえません。対象がお金以外のものなら話は別ですが、対象がお金ならきっと裁判よりいい問題解決手段があるはずなのです。

小技として支払督促とか小額訴訟といった「裁判まがい」のことを使うことはあっても、実際には法廷での争いには持ち込まない。あくまで「ハッタリ」として使う。死んでも金払う気のないやつにかかわっていても時間の無駄なんですね。不良資産としてあきらめる。それでも払わせたいケースの面白い例として「動産執行」というのがありました。キャバクラ嬢がしこたま借金して踏み倒した。そこそこ給料貰っているはずなので金がないはずがない。だけど「金はない」と言い張る。資産調査してもめぼしい資産は見つからない。キャバクラ店とキャバクラ嬢は雇用関係ではないので、給料の差し押さえもできない。どうしたかというと「動産執行」です。家にある値打ち物の家財を差し押さえるって言う、まさに「差し押さえ」でイメージされるアレです。でも、これってほとんど意味がないのです。差し押さえ現場には「バッタもん屋」が一緒についてきて、その場で「100円」「500円」と買い取り値を決めていく。全部差し押さえても10万も行かないケースが多い上、冷蔵庫とかの生活必需品は差し押さえちゃダメとなっている。

で、どうするか。キャバクラ嬢のドレスを差し押さえるのですよ。ドレスがなくなると嬢は店に出られなくなる。100万回収すればいいとすれば、その場で100万円でそのドレスを「買い戻させる」。これで回収終了ってわけです。今晩着るドレスをすぐ調達するわけに行きませんからね。

 

話が大幅に横道にそれましたが、民事裁判の簡単な流れです。

基本的に、民事裁判をやる場合、「原告」か「被告」か、どちらかになります。簡単のため、あなたが「金返せ」といわれる裁判を起こされる、つまり被告になった場合の話をしましょう。

 

1)特別送達で訴状が届く

 

裁判所から分厚いのが送られてきます。その中で見るべきなのは「請求の要旨」というところに書かれている「請求の内容」です。大体、「被告は原告に金100万円を支払え。」とか書かれています。

これに文句がない場合、100万円黙って払いますよという場合には、放っておいてもかまいません。同封されている答弁書の雛形に「異議はありません」と書いて裁判所に返送してもいいのですが(こちらのほうがお行儀がいいですが)、いいことは何もありません。時間の無駄です。

 

ここで言う異議というのには、支払い条件も含まれています。たとえば、1万円x100回なら払えるけど、すぐに100万円は用意できないよ・・・。というケース。訴状の「請求の要旨」に「金100万円を払え」と書いてあります。これを全面的に認めるというのは、いますぐ100万円を払うよという意思表示です。なので、払えないなら異議を申し立てる必要があります。

 

2)答弁書を送る

 

答弁書の内容は適当でいいです。基本的に「原告の言い分は認めない」「原告の請求の棄却を求める」「裁判費用は原告負担にする」「詳しくは口頭弁論で陳述する」でかまいません。中身なんてどーでもいいんです。答弁書を出すということはつまり、訴状の内容に文句があるということなのですから、「訴状の内容をすべて認める」なんて答弁書を書く人はこの世のどこにもおりません。100万円確かに借りたけどとか余計なことは書かなくてよろしい。まあ、儀式みたいなもんです。この後に始まる口頭弁論の内容がすべてで、答弁書なんてどうだってかまいません(少なくとも地裁レベルでは)。これをせず2週間ほうっておくと相手の言い分をすべて認めたことになります。

なので、ピラピラの答弁書をすぐにでも送っておくとよいです。これはFAXでも受け付けてくれます(2週間後の消印有効ですので、郵送でもダメではありませんが、早めのほうがよいです)。要は「戦う」のか「戦わずして相手の言いなりになる」のか、それを選択するわけです。

あと、この段階で裁判所は行ってもいいですが意味はありません。書記官とお友達になっても、彼らは職業柄誰にでも公平にしないといけません。事務手続きについては教えてくれますが、中身になると「弁護士に相談してくれ」といわれるでしょう。無料法律相談にでも行ったほうがいくらか気が利いています。金額にもよりますがプロに任せたほうが楽なことは間違いありません。ただ、借金をゼロにするのはとても難しいので、受ける弁護士はあまり見つからないでしょう。相場は、着手金20万円+成功報酬20%前後です。成功報酬とは「返済額が相手の言い値から減った額」です。100万円を50万円にしてくれたら成功報酬は50万円x20%=10万円ですから、合計30万円。このケースだと100万が50万+30万=80万になるので、20万得したことになります。

 

3)口頭弁論になる

 

裁判所から「第1回口頭弁論期日」のお知らせが来ます。その日に裁判所に行ってなんかしゃべったらいいわと言う人はすでに負けてますので、以下を読んでください。

原告側になると印紙代や切手代(予納郵券という難しい言い方をする)を払わないといけないのですが、被告側は弁護士代以外無料です。なので本人訴訟で被告なら、一円も払わないまま進んでこれます。

口頭弁論には、準備書面というものを用意しなければなりません。準備書面には事件番号とか原告・被告それぞれの名称とか書かないといけないと決まっているものがいくつかありますが、基本的には普通に作文してかまいません。

今回の例のように単純な消費貸借契約によるものなら簡単です。「返した証拠」「支払い条件の証拠となるもの」を書面で出します。契約書のようにある程度ちゃんとした書面があるならそれを2部コピーして添付します。ひとつが正本、もうひとつが副本です。正本を裁判所に、副本を原告に送る訳です。これは、準備書面とかも同じです。タイトルは大体「被告準備書面(1)」(口頭弁論が増えると(1)が増えていく)というものを使います。原告の場合は「原告準備書面(1)」ですね。

ちなみに最初に出した答弁書も準備書面のひとつですし、届いた訴状そのものも準備書面のひとつです。

第1回口頭弁論までに反論をまとめて、「被告準備書面(1)」を作成し、2部コピーを取って(原本は自分の手元でよい)裁判所に送ります。弁護士事務所だと、裁判所に送ると同時に被告(ないし原告)にも送ったりしますが、裁判所がちゃんと相手方に郵送してくれますので安心です(このときに予納郵券が使われます)。めったにないそうですが予納郵券が足りなくなると追納を要求されるそうです。

で、証拠は書面が最強です。録音テープとか遺留物とか、そういうのを証拠と思っている人は痛い目を見ると思いますが、およそ書面以外のものは地裁レベルでは証拠とみなされないケースがほとんどです。

なので、「何月何日、原告はある時払いの催促なしでよいと言った」と陳述するのはかまわないのですが、証拠書類がないとその記載自体がほぼ無意味です。録音テープを再生している暇は、地裁レベルでは普通ありません。ひとつの裁判は30分しか枠がなく、書類の確認で1回分の口頭弁論は終わり。次は大体1ヵ月後(裁判所や原告の都合で先延ばしになることも多い)。

ここでいう「陳述」と言うのは、準備書面に書いて裁判所に提出することを言います。裁判所で能書きたれることではありません。というか能書きなんてたれている時間はありません。準備書面に書いていないことは陳述していないと考えてもさほど間違いではありません。言いたいことは書式にしたがって紙に書いてきちっと当日は裁判官が「準備書面のとおり陳述しますか?」と聞くので(最近それすら聞かない)「はい」と答える。原告も同様、それでおしまいです。最短5分もあれば1回の口頭弁論はオシマイです。

口頭弁論は平日(土日祝以外)に行われます。

基本的には本人または法定代理人(要弁護士資格)の出廷が必要ですが、被告側の第1回口頭弁論は準備書面さえ提出しておけば欠席しても裁判上不利になることはないと言われています(第1回口頭弁論期日は、ほぼ原告が訴状を提出した日時に依存して決まるためです)。

 

4)何回も何回も口頭弁論する

 

単純なお金の貸し借りでも、最低3回は口頭弁論が行われると思います。1回目の口頭弁論でスンナリ相手の言い分をすべて認めるとか、準備書面で相手の主張に対して反論し尽くす努力をしないと、裁判官は「和解勧告」と言う名の最後通牒を出します。要は、争う余地はもうないから、無駄に時間を名が引かせないで、お互いに了解できる条件で妥協しなはれや!ということです。

何回も何回も口頭弁論されると、貸し手(原告)としてはイヤなものです。しかし、弁護士が出てきているとなると話は別。弁護士は少しでも報酬がほしいので、全力でがんばってきます。

そして、裁判官は弁護士を信じます。本当に司法資格持っているのかいな?というようなアホそうな弁護士もいます。しかし、裁判官は基本的に弁護士を信じます。と言うのも、弁護士は法廷であまり変なことはできないわけですよ。それで食っているわけですから。しかし、こっちは何でもアリです。まあ、やりすぎると法廷侮辱罪とかになりかねませんからほどほどにしないといけないですけど、書面でのやり取りでは好き放題書いてかまいません。

有効な手口としては、言いたいことを書くのじゃなく、相手がかかれるといやなことを書く。いやな質問をする(質問も書面でします)。答えると不利になるけど、答えなくても不利になるみたいな質問が最強です。この辺、将棋とかと似てるかもしれませんね。書類を使ってやる将棋、それが裁判です。

 

5)判決まで行くか、どこかで和解する

 

民事裁判のほとんどは判決まで行かずどこかで和解です。なぜかと言うと、裁判官は忙しいのです。和解なら判決文を書かなくてもよろしい。まあ、和解でも和解書みたいなものは書いてくれるのですが、これは書記官でもできる仕事。判決文は裁判官にしか書けないのです。運よく、老い先短い地裁裁判官なら、暇に任せて最後まで付き合ってくれるかもしれませんが、将来は最高裁判所判事を目指しているような若い裁判官だとたいていまじめに付き合ってくれません。特に、この例のようなしょうもない金銭消費貸借契約にまつわるようなことは裁判になんてしないでくれと思われています(裁判官は決してそのような気持ちが漏れないように訓練していますが、そう思っているに間違いありません)。

 

和解だろうが判決だろうが結果は同じ。「主文、原告の請求を棄却する」だったらあなたは晴れて借金から免れます。しかし、そんな判決が出るような証拠の甘さならそもそも費用や時間をかけて裁判なんてしませんて。やる前に負けるとわかっている勝負を挑むのはバカです。相手も勝つ算段があるから裁判にまでしている。

普通は、和解します。この場合は柔軟な条件付けが可能です。100回払いとかも、ここではじめて可能です。判決文では細かいことにも限界があります。裁判官は忙しいのです。

大事なのは、最初は「100万円?そんなものは知りませんよ」といっておくことです。「100万円?確かに借りました」なら、裁判する意味がないのです。返済条件の相談くらいなら、裁判なんて使わなくとも当事者間で調整できることです。なので、これは絶対法則ですが「裁判する以上、100万円なんて借りていない、いわれのない借金である!」と主張することです。そうでないと意味がありません。

そして、最後のほうに「ふーん?もしかしたら借りたのかもしれないなぁ?じゃあ50万円じゃどうだい?」と妥協案を示し、相手が強硬姿勢なら「まあまあ、じゃあ80万円出すよ」って、どっちが優位なのかわからなくなってきます。

で、最後の最後に「わかったわかった、100万円返すけど、いま持ち合わせがないから、1万円x100ヶ月でどうだい?」と言う感じで畳み掛けるわけです。

 

裁判システム。それは、「正しいもの」ではなく「使いこなしたもの」を有利にするためのものです。そこを履き違えるとつまんない裁判になりますので、勉強してから挑んでください(とはいえ、2週間でそうそうキャッチアップできるものでもないですけどね・・・)。