老いぼれエンジニアには隠す爪がない

この時代に老いぼれを見たら、「生き残り」と思え…!

ウサギの出世

肉食獣から何とか逃げ切ったウサギは、村に帰るとすごい人気者になっていた。皆がウサギを口々にはやし立てた。

 

「あの肉食獣から逃げ切るなんて!」

「群れ全員がやられたこともあったのに、たった一人で逃げ切るなんてありえない!」

 

ウサギはこそばゆい気がした。

涙を流しながら必死で逃げ回っていた、運よく肉食獣があきらめてくれた、ただそれだけなのに、これだけはやし立てられるなんて、考えもしなかった。群れを一人で抜け出したことを怒られこそすれ、褒められるなどと考えもしなかった。

しかし、草食動物は肉食獣に勝つことはできない。ただ逃げるだけしかできない。だから、「逃げ切る事」、これは草食動物にとってすればまさに最高の実績なのであった。

肉食獣に家族をやられた村人もたくさんいる。ウサギが英雄視されるのはある意味必然であった。あまりにこそばゆいのでカメにも聞いてみた。

 

「君が来てくれなかったら危なかったのにね。逃げ回ってる俺、かっこ悪かったでしょ?」

 

首を横に振るカメ。

 

「ウサギくんは、ホントすごい。あのものすごい肉食獣の猛攻を、考えられないくらい滑らかな動きで避けていた」

 

必死こいて小便ちびりそうになりながら、涙をこらえて避けていたはずなのに、そんな風に見えていたのか。カメはこう続けた。

 

「肉食獣には、明らかに疲れと焦りがみえたよ。だからあきらめたんだと思う。」

 

確かに、死を覚悟したあとの時のことは自分でも良く覚えておらず、体が勝手に動いているような感覚だった。いま同じことをしろといわれても無理だと思う。

ウサギは、これまで自分が「疾い」と思っていた。だが実際には、疾さでは肉食獣には全くかなわなかった。開き直って肉食獣と対面し、無意識だったけど気づいた。自分の能力の本質は「疾さ」ではなく「機敏さ」であるということに。

肉食獣は「疾い」が、体が大きい分機敏ではなかった。そこ気づき、集中できたおかげで、生死が分かれたのだろう。でも、それに気づけたのは、「持続力」に全てをかけ「あきらめない心」持ち続けるカメの姿勢に触れたからだと、今ではハッキリわかった。

そう思っていると、カメが問いかけてきた。

 

「ウサギくん、もう一度勝負をしないかい?」

 

いつものとおりの穏やかな瞳で、でもなかなか闘志あふれるカメの気持ちが伝わってきた。

 

「ああ、いいよ。」

 

ウサギは続ける。

 

「だけど、今度はどちらが速くゴールできるかじゃなく、どちらが長く走り続けられるか、それを勝負しないかい?」

 

カメは驚く。

 

「僕は、何時間でも何日でも歩き続けられるよ?本気で言っているの?」

 

ウサギは答えた。

 

「もちろん」